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STS-95シャトルミッション

   STS-95シャトルミッションは、ジョン・グレン上院議員と向井千秋さんが乗り込んだことで、注目を浴びたミッションである。この実験は、Japan-US Thermal Science Acceleration Project(JUSTSAP)と題し、温度勾配を与えた環境での様々なイベントでのg-jitterに対応する温度の揺らぎを調べた。STS-95におけるこのJUSTSAP実験は、日米協同として行ったものであり、計画から実施までが1年以内であることや日本側の資金的調達が六百万円程度であることを考えると、従来の宇宙実験のイメージを一掃するに十分な成果であったと評価できる。また、このJUSTSAP実験を通じて、日米間の宇宙技術の発展と技術者間の協力体制を構築する一つのロードマップができたわけで、実験そのものの重要性はもとより、宇宙実験に対する認識に新しい一面を導入することができたと言える。MEワーキンググループの活動にとって、本実験の遂行は最も大きな収穫であるとともに、さらなる展開への大きな一歩となった。

 

 

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STS-95: JUSTSAP実験の概要

 

 スペ−スシャトル等においては完全な無重力ではなく、定常的な残留重力と振動的なg-jitterが残っている。定常的な残留重力は空気抵抗や装置の重心からのずれによるものであり、g-jitterは内部の機械の振動、人の活動、構造物の振動等によるものである。本実験の目的は、すでに述べたように、アラバマ大学ハンツビル校の微小重力応用研究プロジェクト科学者であるNaumann教授の提案である熱物質移動に対する残留加速度/g-jitterの影響を調べることである。この実験は、水を充填した小さな円筒の片側を加熱し、温度差による対流を温度デ−タとして測定し、これに及ぼす微小重力外乱の影響を調べるものである。この実験成果は、拡散や融液からの結晶成長や気相成長などの宇宙実験においてg-jitterが影響する現象の解明に寄与し得る。

  プロジェクトの役割分担として、JSUPが日本側参加者およびプロジェクトの管理と分担費用の収集を行い、SpaceHab社がSTS-95フライト機会の確保とペイロ−ド・インテグレ−ションとプロジェクト費用の分担金支払い、および米国側参加者のとりまとめとプロジェクト管理を行う。

   実験容器は、直径2インチ、厚み0.125インチのポリカ−ボネ−ト円筒で、一端に銅製のプラグヒ−タが挿入され、他端は銅製のヒ−トシンクが入っている構造である。円筒内壁とプラグ間は2重にオ−リングでシ−ルされ、ヒ−タ−側は加熱における液体の熱膨張を許容できるようにバネ支持になっている。

  全体はアルミニウムの台座に固定されている。ヒ−トシンクの上のフランジは、アルミのエンドプレ−トと対になっていて熱伝達がよくなるようになっていて、SpaceHab社の用意している台座に放熱している。これにより、流体のヒ−トシンクはスペ−スハブモジュ−ルの周囲温度付近に保つことができる(25℃)。

  電力は、隣接した加速度計用電力供給装置から得ていて、28Vと12Vの直流電力が供給される。28V系は2.5Aのヒュ−ズ、制御装置用12V系は1Aのヒュ−ズで保護されている。プラグヒ−タは、約1Aで、PID制御で65℃±0.2℃に保たれる。制御装置は1秒毎にプラグヒ−タ内の2つのサ−ミスタで温度感知し制御する。二つの銅プラグ間(10 cm)の温度差は40度であり、システム立ち上げ後約30Wの消費電力により12-15分で作動温度に達する。

  デ−タシステムは、2つの自動制御演算装置で構成され、1つの演算装置はヒ−タ制御と6チャンネルの温度デ−タ記録、もう一方の演算装置は8チャンネルの温度デ−タ記録を行う。

  計測は、主に軸方向での両端近傍2点と半径方向での直交4点に配置したサ−ミスタ−により行う。ポリカ−ボネ−ト円筒壁にもサ−ミスタ−を配置し、熱解析の信頼性を確保する。 温度測定結果と加速度計計測結果との相関を調べ、モデルによる解析予測結果と比較することにより、実験に供した容器設計および測定対象の有効性を評価する。